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2011/09/24 食品機能性概論X歩前

まえがき

本記事は、食品の3機能性について、所感をふんだんに交え、概説したものである。 否、概説を交えながら所感を述べたものと言った方が適切である。 次第にまとめる気が起こらなくなったため、考えていること次々放り込んだ。 そのため、これは論説文ではなくアイディアノートである。 洞察のエッセンスが散りばめられているものとして、理解を頂ければと思う。

食品の多面的な機能性

食品は、日常を生きる我々の、主な関心事の一つである。 例えば、子どもには栄養のあるものを与えたい、友達とおいしいものを食べたい、 体調を崩しやすくなったので健康に気をつかったものを食べたい、等それぞれの関心から食品を見て取っている。

上述の関心に反映されているように、食品には多面的な機能(Function)がある。 食品学では、食品の機能を3つに分類し、それぞれ1次機能、2次機能、3次機能とするのが通例である。

● 食品の1次機能

1次機能とは、栄養学的な機能であり、食品としての最も基本的な機能である。 具体的に言えば、「生体が必須とする炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン類もしくは金属類等の供給により、生体恒常性を維持する食品の機能」である。 先の「子どもには栄養のあるものを与えたい」というのは、1次機能についての関心である。

● 食品の2次機能

2次機能とは、食品の嗜好品としての機能である。 具体的には、「知覚的に味、風味、食感等の嗜好を呈する食品の機能」と表現できる。 先の「友達とおいしいものを食べたい」というのは、2次機能についての関心である。
なお、先の「知覚」とは、感覚の他、想覚を含む語として用いている。 そのため、例えば、視覚に触発されて味、風味、食感等の嗜好を呈する場合も、2次機能に含まれる。 つまり、食品を目で見て楽しむというのも、2次機能の範疇である。 (食品添加物の着色料、発色剤は、2次機能の観点から理解される。)

(参考) 2次機能の解釈について

2次機能は味、風味、食感等の知覚的側面に焦点を当てたものであるから、 嗜好性にのみ限局しなくともよいのではないか。つまり、「おいしい/おいしくない」を含み、 味等を一般的に呈するものを2次機能と称してよいのではないかという趣きもあるかと思うが、 食品として提供する、という形態を鑑みると、やはり2次機能は嗜好性に限局することが妥当である。 例えば、腐敗して味が変質したものを食品として積極的に提供することは、あってはならない。 それは提供されるべき食品ではなく、忌避されるべき食品である。 そのため、2次機能は、食品として積極的に提供できる機能として解されるべきである(つまり呈味性等の中で、特に嗜好性となる)。
なお、これはその他の食品の機能性についても同様である。 「食品の機能性」は、生体にポジティブな影響をもたらすことを目的として、用いられる語である。

● 食品の3次機能

3次機能とは、「食品の生体調節機能」と解されるのが、本義である。 しかし、昨今は、「病気のリスクを低減する機能」として理解される傾向にある。 先の「体調を崩しやすくなったので健康に気をつかったものを食べたい」というのは、3次機能についての関心である。
「食品の生体調節機能」と「病気のリスクを低減する機能」の違いは、守備範囲の大きさである。 「病気のリスクを低減する機能」には、食品成分が生体調節する場合と、そうではない場合がある。 つまり「病気のリスクを低減する機能」は、「食品の生体調節機能」を含む、広範な概念として用いられる。
実際、特定保健用食品という、制度的保障の下で3次機能を謳う食品の中には、 食品成分が生体調節する場合と、そうではない場合がある。 例えば、花王の「ヘルシア」は生体調節するが、サントリーの「黒烏龍茶」は生体調節しない。 このように実態としては、3次機能という語は、「病気のリスクを低減する機能」として理解されている。

(参考) 3次機能の拡大解釈について

3次機能につき、食品成分が生体調節をしない場合にまで機能(Function)の語を当ててよいか、筆者には疑問に思われる。 あくまで、食品が生体に及ぼす影響、というスキームで機能性を理解するべきと考える。以下参考である。

食品成分が生体調節しない場合は、さらに次の2つに分類できる。

(1)は、食品成分と生体に関係性はあるが、食品成分が生体に対して能動的な影響をもたらすことを目的としない場合である。 むしろ、生体機能の効果的な利用を、食品成分に対し図ったものである。
例えば、低蓄積性油脂として知られている日清オイリオの「ヘルシーリセッタ」は、脂肪酸の組成として中鎖脂肪酸を多く含む。 この中鎖脂肪酸は、通常の長鎖脂肪酸とは異なり、生体への吸収後に中性脂肪への再合成に用いられない。 遊離脂肪酸のまま門脈に流入し、肝臓ですみやかに酸化(β酸化)される。
このように、「ヘルシーリセッタ」は、長鎖脂肪酸が生体に蓄積されやすいのに対し、 中鎖脂肪酸であれば生体機能的に蓄積されにくいことを効果的に利用した脂質である。 中鎖脂肪酸自体が、生体機能を調節しているわけではない。

(2)は、ある食品成分の関与の対象が主として他の食品成分である場合である。
例えば、サントリーの「黒烏龍茶」は、ウーロン茶重合ポリフェノールを多く含む。 これは疎水性が高く、食事に由来する脂質を吸着する性質がある。そのため、生体に吸収されにくくなる。 このように、ウーロン茶重合ポリフェノールが、直接的に、生体と関係するわけではない。

(1)、(2)のように、食品成分が生体調節しない場合、食品の機能性(Function)と理解するよりも、 食品の特性(Property)と理解する方が、事態を的確に捉えている。 そのため、食品の3次機能は、生体調節機能という狭義のものに限局すべきと考える。 この場合、現在事実上3次機能として理解される「病気のリスク低減」概念の構成要素は、 「健康増進機能(Function=食品の3次機能)」と「健康維持特性(Property)」として、再定義できる。

何故、このように分類するのか?前者は予防医学的な問題系(どうやって病気になりにくい体質にするか)にあるが、 後者は食品安全学的な問題系(どうやって今ある健康を害さないようにするか)にあると考えられるからである。

食品の3機能の歴史的展開

マクロにみると、人類の歴史の大部分は、食品の1次機能の恩恵に与ることができるかどうかを問題としてきた。 しかし、農業生産技術または食糧分配機能等が高度に実現された地域では、食糧供給量は十分(もしくは過剰)であるため、必然的に1次機能の優先度は低下する。 そこで、優先度が相対的に上がるのが、2次機能、3次機能になる。

2次機能(食品のおいしさ)は、質的な食の楽しみをもたらすと同時に、食習慣を変化させるに十分なインパクトがあった。 おいしいものをたくさん食べたい。質的な楽しみが量的な快楽へ転じると、食習慣に起因する生活習慣病が問題化する。 そして、実際、時代はそのように推移した。

3次機能は、上のような「病気のリスク」に対する関心の高まりとともに、注目されることとなった(註:ここでの3次機能は「病気のリスクを低減する機能」とする。)。 食品学の教科書では、特に注目されている機能、と3次機能を紹介するのが通例である。 今や特定保健用食品のマークを、食品売り場で見つけることは、容易い。

(参考)「サプリメント」という発想

人々の「病気のリスク」に対する関心の高まりは、「健康食品」ブームを生んだ。 「健康食品」の内実は、科学的に効果が実証されたもの、統計学的に効果が実証されたもの、 科学や統計らしきものを使って効果を謳ったもの、イメージで効果を謳ったもの、等玉石混交である。 (そのため、科学的に効果が実証されたものが適切に認知されるよう、特定保健用食品という制度が必要とされた。)

しかし、一般に「健康食品」とはどのようなものかと問われるならば、 先の内実よりも、供給の形態をイメージするものと思われる。 特に、「サプリメント」的ものをイメージすることが多いだろう。

「サプリメント」と食品の3次機能に基づく食品は、ともに健康を志向しているとされるが、上述の歴史からみると、発想の時代区分が異なる。 「サプリメント」は、「不足したものを補う」という点で、栄養学的な観点、1次機能の時代区分に定位した発想である。 しかし、食品の3次機能に基づく食品は、主として「過剰なもの抑制する」という発想をしている。(糖、脂質、コレステロールの吸収を穏やかにする。体に脂肪がつきにくい。血圧を低下させる等)。

ともに、食習慣の変化に伴う対処であった。 「サプリメント」はそれを栄養バランスの側面から見たが、食品の3次機能に基づく食品はそれを摂取の絶対量の側面から見た。
しかし「サプリメント」は次第に、不足したものを補う、という発想ではなく、生体に有用(そうな)成分であればSupplyしようという発想になっていると見受けられる。 「サプリメント」というイメージに、胡散臭さを抱くとしたら、この点だろう。

先に、「サプリメント」と食品の3次機能に基づく食品は、ともに健康を志向しているとされる、と書いた。 正確には、食品の3次機能に基づく食品は病気のリスク低減を志向するが、 「サプリメント」は栄養を志向する、と書き分ける必要がある。

人は食品の機能性のどれを優先するか?

先に、食品の機能性の歴史的展開を書いた。 それは1次機能→2次機能→3次機能へ関心が遷移する過程として描かれた。 しかし、機能としての関心と食品としての優先は異なるように思われる。

例えば、「体によいがおいしくないもの」と「体によくないがおいしいもの」、 どちらが食品として優先的に選択されるだろうか。 おそらく、3次機能に関心が遷移したとしても、優先されるのは2次機能と考えられる。

人々が商品として選択する場合、食品の嗜好性は依然大きなプレゼンスを占めている。また今後も占め続けるだろう。

(参考)食品の3次機能研究の方向

食品の3次機能の研究は、依然として「おいしいものをたくさん食べたい☆」という Quantity of Plesere(QOP:快楽の量。QOL(Quality of Life)を参考にして筆者が造った語)に応えることを ドライビングフォースとして展開されるのかもしれない。
それは、それでニーズがあるので構わないが、食品の3次機能の地平には、もっと違った展望があるのではないかと思う。 私にはそれが、免疫機能性食品に思われたのである。 何故か?食習慣の改善による調節が相対的に困難と考えられたからである。

食品の過剰摂取が問題となる場合、摂取量を減らす又は運動する等の生活習慣の改善が本質的な対処方法である。 つまり、生体内部の問題として捉える以前の部分に調節点があり、それが本質である。 そのため、ここでの食品は、生活習慣改善の補助的な役割という位置づけとなる。

しかし、免疫疾患に係ることは、相対的にみると、調節点が生体内部にある問題として考えられる。 そのため、食習慣に対する対処として着目されている現今の機能性食品とは、異なった展望があるのではないかと考えられるのである。


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